夏の花が咲いていて

夏の花が咲いていて あなたに教えてもらった名前を思い出す 「日本の夏だね」って言ってあなたと歩く いくつもの火をつけては 面白がってすぐ逃げ出した 涙に暮れて笑い転げて 少しずつ気持ちは色を変えて 初恋を結んでは ぞんざいに投げつけて「こんなもの…

眩しい夏の街角で

ひとり暮らしにも慣れたと思っていたのに あなたが去った後に、むせ返るような残り香 蚊取り線香を焚いて、子どものように泣きじゃくる夏 さようならが、いつまでも上手くできない ぼくは大人になって いつの間にか大人になって 忘れたような記憶が 雨に濡れ…

寄る辺ない朝に

薄い青色をしたカーテンから、部屋全体に溢れるように、光が透けて見える。 私は寝返りを打つようにして、身体を左に向けて窓から目を背けた。自然、横に眠っている男の背に、手がぶつかる。シャツ越しに、温かく湿った体温が伝わってくる。この男は、こんな…

私の輪郭

「夏が近づいてくるとさ、夜道、外気の温度と肺のなかの温度が同じで、身体の輪郭が、少し揺らぐ感じがするでしょ」 二見さんはまるで、花って綺麗でしょ、とでも言うような感じで、そんなことを言う。 私たちはランチに、オフィスビルの高層階にある、創作…

悪魔と天使

僕の人生の一瞬一瞬は、本当は尊いはずで、あなたの人生の一瞬一瞬も、本当に尊いはずで、だけれどときどきそれを忘れてしまう。 あなたと会うということは、僕とあなたの時間を共有することで、ふたつの心の距離が変化し続ける感じがして、人生の一番大切な…

絶対にひとりになれない私達

部屋の窓を開けていると、しっとりと濡れたような栗の花の匂いが濃く香ってくる。5月の夜。隣接するコインパーキングが、緑色に光る文字で「空」を知らせているのが目に入る。 「もう、うんざりなの」 ひんやりと湿ったシーツに腰かけ、私は電話の向こうの友…

きれいな執着

仕事帰り、新宿駅の南口で待ち合わせをする。 君の髪が随分短くなっていることに気づいて、似合ってるよと言う。ありがとう、と言われる。 テニスのガットを張り替えるためだけにわざわざ新宿まで来たと言う君に、何それ、と笑ってみる。普通じゃない? と君…

色水、庭草、ホウセンカ

須藤くんがオシロイバナと言うと、母はホウセンカと言う。母がアサガオと言うと、須藤くんはツユクサと言う。それからふたりして、サルスベリもあったよね、と笑う。 掘りごたつには、あたしと、母と、須藤くんの三人で座っているのに、彼らはまるで子どもみ…

KIMOCHI

現代。着地点は俺が決めるから、地に足はついてる ずっと楽しいキブン。身体が変わっちまった、この世のすべては楽しい あの日の身体、忘却の彼方、同じ身体 泥船なんかじゃない、色っぽいこの信念、生意気な身体 だんだん、日々を忘れて だんだん、意味も、…

世界は当たり前に美しくて尊いってことを、忘れないための日記

カーリング女子銅メダル獲得おめでとう~!!! たまたま今日、夕飯を食べに定食屋さんに行って、そこのテレビでカーリング女子の試合が流れてた。 そこの定食屋さんは、中国人かな? と思われる、ちょっとカタコトの元気がいい女の人と、白髪まじりでにっこ…

郁子さんのこと

フレッシュネスバーガーにいる。 わたしの目の前には郁子さんが座っていて、焦げ茶色の丸テーブルに、春そのもののようにぷっくりした手を、重ねて置いている。 「フレッシュネスバガーのね、チャイがとっても美味しいのよ」 集合場所である中央公園で会うや…

赤い、あまい、やわらかい

「切ないなって、思ったの」 僕たちは日比谷公園にいて、秋で、ベンチに座って空を眺めていた。手を繋ごうか迷ったけど、やめておいた。君の言葉に、うん、と相槌を打った。 ベンチのすぐ後ろには柵に囲われた広場があって、すべり台やブランコなんかの遊具…

ぼくの『東京と今日』

"君が居ない 君がいる 繰り返すだけ 君と別れて また別の君を愛した" 大森靖子 『東京と今日』 仙台に生まれ育った。 母も父も大好きだった。兄のことも姉のことも、好きだった。 高校の友達のことも、好きだった。 でも、仙台から離れたかった。 どうしてか…

なかったことにされた I love you について

2年弱くらい前に、大阪の人がぼくのことを好いてくれていた。 彼は大阪から千葉までわざわざ来てくれて、飲みに行ったり、一緒にディズニーシーに行ってトイストーリーマニアに乗ったりした。 幕切れは簡単で、「弄ばれているような気がする」と言われて、…

ここにいて

風邪をひいた。 大学院を卒業するための修士論文を、4日で書いた。 ふつうは1、2ヶ月くらいかけて書くものなんじゃないかな。多分。 僕にとっては、修士論文なんて超どうでもよかったから、なるべく執筆期間を短くしたかった。 ここ最近ずっと忙しくって…

あれはね

あれはなんだろう 夕陽を映す湖のまたたき あれはなんだろう 夕焼けに目を細める赤子の黒目 あれはなんだろう 北の町で生まれ育ったあの子の三つ編み あれはなんだろう 初めての逢引きは石畳に光る水溜まりの夕暮れ あれはなんだろう 乾いた掌は富士山のよう…

感情ちゃんと大丈夫くん

昨年の終わりあたりから、自分の中に「感情ちゃん」と「大丈夫くん」がいることに気がついた。 彼らはぼくの中で日々勝手に遊びまわり、大声で叫んだり静かに座りこんでいたりする。 ぼくは自分の核というか、コントローラーみたいなもので二人の手綱をとっ…

誘惑してくれ

画面ばかり眺める理論家は、世界のなに一つも知らない。 いつも恋に飛び込む気分屋は、馥郁たる世界を知っている。 傍観者でいることが客観的であることだと、一体いつまで思ってる? 上手く立ちまわろうとして、袋小路に追い詰められている愚か者は誰? 本…

大晦日と浴室

この家の中で最も安心できる場所が風呂場だ。 いまは午前一時過ぎで、居間に敷いた布団の上で兄夫婦とその子供たち――私にとっての姪と甥――は死んだようにぐっすりと眠っていた。その居間とふすま一枚で仕切られた和室では、今月生まれたばかりの姉の子供が、…

選手宣誓

あなたがもし、「自分の人生クソみたいだな」って思っていたとしても。 ぼくは、あなたが生まれてきたことに、「おめでとう!」って言いたいな。 「希望を持て」って、すごくつまらない言葉だと思う。そんな抽象的な言葉ではだれも救われない。誰でも、希望…

荒野にて

恋愛はオプションあったら楽しいかもね性別はオプション昨日は女で今日は男なくたって構わないかもねルールはオプション3人で付き合えば楽しいし裸で外歩いたっていいかもね人生なんて荒野とがった風が痛いどっちに行きゃ幸せどこに立ってるかわからないなら…

生きる歓びを、命の花束を

原宿にあるデザインフェスタギャラリーに行って、ホリウチ ヒロミさんの個展を見てきた。 原宿駅なんて普段降りることがないから、観光気分で竹下通りに入ってみると3分も経たずに後悔した。祝日ということもあってか、道は人、人、人。クッキー缶をじゃかじ…

yes

寒い夜に 星を見にあなたと待ち合わせ 心が浮き立って落ち着かないな 貸してくれた本返せなくて 闇に揺れる木々の音聞こえるほど 怖がっているから 話して 月のない空 燃える砂と赤い光 揺れる青い炎見つめているのは 甘いココア飲みたいからじゃない yes を…

淋しがってる暇はない

ある人に手紙を書いた。便箋10枚ほどの長い手紙。 返事はすぐ返ってきて、「しょげたり、淋しがってる暇はありません」という言葉をもらった。 「あなたは優しいけど強い人間だと思っています。その強さは風のように柔軟で、自分が嬉しい時でも苦しい時で…

過去と和解すること

河原で拾った、まあるい石持ってどこ行くの。 メタセコイアの下で待ち合わせしよう、夕焼けが校庭を照らしてる。 うちに帰ればカレーのにおい、お母さんが待ってるよ。 お墓の前で唱える言葉、涼しい日陰、木々の揺れる音、お父さんがチャンネルを変えたがっ…

『往復書簡 初恋と不倫』、偶然と必然のあいだ

ガラス窓のこちら側から他人行儀に見ていたはずなのに、そして身に覚えもないのに、キリキリと胸の奥が痛い。 もうとっくに忘れてしまった記憶を、忘れたままに引っ掻かれたみたいにかゆくて痛い。 でも不思議と、その痛みは大切に抱いていたいと思えた。 坂…

『ていだん』と小林聡美ブーム

先日本屋で真っ赤な装幀が目に留まって、女優の小林聡美さんの『ていだん』という本を買った。 小林聡美さんは映画『かもめ食堂』に出演していたり、テレビだと、彼女がおいしそうなサンドイッチやイングリッシュマフィンを作って、それにつられて熊やこども…

口と夜

肝要な事を口にすれば負け。僕はさっきから、下手な芝居を打っている。どうとでも取れるような言葉を並べて、本当の事は夜に隠して。明かりを消して、何も見えなくする。その両の目は飾りだから、月が隠れたとき見開かれるものが本物。おそらくは、二人のあ…

歩道橋 / うねる海 / おんなじだな

歩道橋 飴玉みたいな夕暮れ時の太陽が、雲の谷間に転がり落ちてゆく。 手を振っている間に見えなくなったから、乾いた空気が夜の気分を連れてきた。 街のどこかで鳴いている、寂しがりやはないものねだりしている。 たくさん触れておけばよかったって、思っ…

無意味なことこそ大切

音楽をよく聴いている。 歩きながら、ご飯を作りながら、洗濯物をたたみながら、友人を待ちながら。 自分としてはそれが普通だと思っていたから、このあいだ友人に「本当に音楽好きなんだね」と言われて、「あ、これってスタンダードじゃないんだ」とようや…