『ていだん』と小林聡美ブーム

先日本屋で真っ赤な装幀が目に留まって、女優の小林聡美さんの『ていだん』という本を買った。

小林聡美さんは映画『かもめ食堂』に出演していたり、テレビだと、彼女がおいしそうなサンドイッチやイングリッシュマフィンを作って、それにつられて熊やこどもたちがやってくるという『超熟』のCMに出演したりしている。彼女の作るものはなんでもおいしそう。

てい - だん 【鼎談】三人が向かい合って話をすること。――『広辞苑』より

二人で話をすることが「対談」で、三人で話をすることが「鼎談」。

『ていだん』はタイトルの通り、小林聡美さんとゲストの二人の鼎談の様子が書かれている。

ぼくはまだ途中までしか読んでいないのだけど、この本、小林聡美さんの魅力がぎゅうっっッ!!! と詰まっていて、とても面白いです。

ゲストで来ている人も勿論、立派で魅力的な方々(井上陽水もたいまさこ、小野塚秋良、役所広司など)なのだけど、一貫して自然体な様子の小林聡美さんに惹かれずにはいられません。

「自然体」という言葉は、あまりに使われ過ぎていてなんだか俗っぽい気がしてしまうけど、彼女は本当に自然体だと思う。自然体というか、媚びない。どんなに立派な方がゲストで来ていても、彼女は気を遣い過ぎることも横柄になることもない。素直に思ったことを発言し、質問している。

これって意外とできる人少ないんじゃないかなあ。

谷川俊太郎さんのエッセイ、『ひとり暮らし』で、

『ただそこに「在る」、自己主張もせず、甘えもせず、余計な謙遜もせず、草花のように簡素に豊かに存在している』 (文庫 p181)

という一文があるのだけど、まさにこれ!!

小林聡美さんは自己主張もしないけど甘えもしない、余計な謙遜をせずにただそこに居る、という感じ(まったくの繰り返しになってしまったけれど笑)。

 

映画『かもめ食堂』では、小林聡美演じるサチエが、「あなたたち、好きなことだけやってらしていいわねえ」と言われたのに対し、

「やりたくないことをやらないだけです」

と答えるシーンがある。

この『ていだん』の中で、片桐はいりさんがこのシーンについて言及する場面があるのだけど、ぼくも思わず、「うんうん」と読みながら頷いてしまった。

「やりたいことだけやる」のではなく、「やりたくないことをやらない」。

一見同じようなことに思えるけど、この違いはとても大きい。

やりたいことだけやる、というのは単に自分の欲求に従っているだけだけど、やりたくないことはやらない、ということは自分の行動に責任を持つ、ということだと思う。その勇気たるや。

そして、欲望を持ちすぎないということ。その慎ましさたるや。

片桐はいりさんは、この台詞の意味を撮影当時はよくわかっていなかったが、最近わかるようになったと話す。

それに対して小林聡美さんは、

「私は……わかりましたよ。」(単行本 p55)

と返す。かっこ良すぎる!!!

 

読んでいて思ったことがもうひとつあって、それは、小林さんはユーモアのあるかわいらしい人だ、ということだ。

それはお笑い芸人のような「あからさまな面白さ」じゃなくて、話をしていると、その話のレールから「ポンッ」と僅かに逸脱するような、品の良い面白さだ。

たとえば、彼女がフードスタイリストの飯島奈美さんと、東京農業大学の名誉教授、小泉武夫さんと「発酵の魅力」について話しているとき。

小林「ちなみに先生が子どもの頃は、どんなものを食べてましたか?」

小泉「私は福島県小野町の出身で、当時食べていたのは主に魚。小名浜のサバとかイワシとか、ヒカリものが中心です。」

小林「頭がよくなりそうですね。」(単行本 p29)

というやりとりがある。

ぼくはこの『頭がよくなりそうですね。』に思わずクスッとしてしまった。発酵の話をしているのに!

話の相槌として、レールから脱線はしてないけどちょっと外れた返し。「魚を食べると頭が良くなる」と思い込んでいる感じもなんだかかわいらしい。笑

こういう相槌って、相手に対して萎縮したり緊張していたりしたら出てこないし、かと言って、小林さんは思ったことを常に頭から垂れ流しで話しているわけではなくって、この場合は「話を聞いていますよ」という意味で言っている。

こういう絶妙に力の抜けたところが、かわいくてかっこ良くて、小林聡美さんの小林聡美さんにしか出せない魅力だよなあ、と、ぼくは一気にファンになってしまいました。

 

ファンになった勢いで、来月から始まる舞台、『24番地の桜の園』のチケットを取ってしまった。勿論、小林聡美さんも出演する舞台。

チェーホフが原作の舞台を串田和美さんが演出でやるらしく、今のうちからとても楽しみ。芸術の秋だよ、へへへ。

彼女が昔出ていた「すいか」というドラマも見たいし、あーしばらくぼくの中の小林聡美ブームは続きそう。

なににせよ、中央公論新社が出している『ていだん』、とても面白いので気になる人はぜひ読んでみてくださいな。