感情ちゃんと大丈夫くん

昨年の終わりあたりから、自分の中に「感情ちゃん」と「大丈夫くん」がいることに気がついた。

彼らはぼくの中で日々勝手に遊びまわり、大声で叫んだり静かに座りこんでいたりする。

ぼくは自分の核というか、コントローラーみたいなもので二人の手綱をとっている。

彼らのうち、どちらかを特に大切にしなければならない、ということはない。どちらのことも、尊重してあげなければならない。

感情ちゃんは名前の通り、感情を司っていて、「とっても嬉しい!」とか、「すごく悲しい……」とか、「めちゃくちゃ面白い~」とか、「ふざけんじゃねぇぞ消えろ」とか、「寂しくて心細い」とか、「言葉で表せないくらい感動!」とか、「切なくて、じーんとしちゃう」とか、そういうことを言っている。

大丈夫くんは自分の中の希望とか意思みたいなものを司っていて、「どんなことがあっても、意外と大丈夫だよ」とか、「平気平気、あしたには笑えてるよ」とか、「ぼくが一番、ぼくが大丈夫なこと知ってるよ」とか、「どんな気分になっても大丈夫だから安心して」とか、そんなことを言っている。

片方の力が強くなり過ぎるとバランスを失って、とても苦しい状態になってしまうことを、ぼくは経験的に知っている。

 

 

たとえば、ずっと好きな人にふられてしまったとき。

感情ちゃんは、「すごく悲しい……、やり切れない。この世の終わりみたい。これから先の私の人生、なんの希望も残ってない……」みたいなことを言い出す。

もしかしたら、「どうしてこんなことになるの? 告白するんじゃなかった。そもそもあの人はすごく自分勝手!」とか、そんなことを言って怒り出すかもしれない。

一方で大丈夫くんは、「ふられたからって命が尽きるわけでもないし、なんにも問題ないよ。気分だって三ヶ月もすればかなりマシになってるはずだし、大丈夫。それよりもいま残ってるものを見つめなきゃ。家族だって、友達だっているし、それに一人だって人間は大丈夫なものなんだよ」なんてことを言い出す。

もしも大丈夫くんのことをないがしろにして感情ちゃんの力が強くなり過ぎると、冷静に考えることを本体(自分)がやめてしまって、突発的な行動をとってしまうかもしれない。大丈夫くんが、「大丈夫だよ~」と叫んでいるのを無視して、いつまでも浮き上がってこられないような気分になる。それは辛い。

でも逆に、感情ちゃんのことをないがしろにして、大丈夫くんの力が強くなり過ぎるのも、それはそれで辛い。本体(自分)が、「大丈夫にならなきゃ。ぼくは大丈夫なんだ」と思い込もうとしてしまう。けどそう思おうとしても、感情ちゃんは悲しんだままだから心の底からは大丈夫と感じられないし、そういう「感情ちゃん無視」の状態を引きずると、「何も感じられない」という状態になってしまう。

大切なのは、感情ちゃんと大丈夫くんを、どちらも大事にしてあげるということだ。

よしよし悲しかったんだね、こんなに傷ついたんだから怒るのもしょうがないね、と言ってあげる。その上で、大丈夫くんの声にも耳を澄ませる。しっかり二人の言うことを聞いてあげると、彼らは手を取って明るい方向へと向かってくれる。

「怒り」や「嫉妬」なんかのネガティブな感情は、ついつい否定してしまいたくなるけれど、まず認めてあげる。感情ちゃんの存在をなかったことにせず、認めてあげる。

感情を他者のせいにも、自分のせいにもせず、まずは自分の中に湧きあがったその感情を直視して、認めてあげる。

「そうかそうか、ぼくの中ではこんな感情が生まれたのか。これは、ぼくの感情だ」

それを眺めて、そっとしておいてあげる。

感情は感情ちゃんが司っているものであって、本体である自分は、それを操縦しているだけだ。だから、ネガティブな感情を抱いたって自分を責める必要はないし、感情ちゃんは自分の中にいるものだから、他者のせいにすることもできない。

どうして悲しいのか、どうして怒りが湧くのか、どうして嫉妬してしまうのか。問題の根本を見つめて、考えて、他者に何か伝えるべきことがあれば、伝える。自分の考えを変える必要があるのなら、自分の判断で変える。自分の気持ちや感情に、責任をとる。

感情ちゃんがなぜ嬉しがっているのか、悲しがっているのか、考えてもわからないこともある。自分の中にいるはずなのに、他人みたい。不思議。

でも、仲良くやってこうね。

本体として、二人のことをこれからも大切に尊重して生きていきたいと思う。