満ちる

分かりたい。

分かりたいって思ってる。

でも分からないこともあるんだよ、それでいいって思ってた。

朝の光が昇って目を覚まして、働いて、陽が落ちて。

また布団にもぐって眠るの。

それを奇跡って呼ぶのか、虚しいってうなだれるかは、僕たちの自由だもの。

 

涼しい風が吹いて、秋の匂いがする。

いつも秋は不意打ちでやって来るから、僕は恋をしたときみたいに無防備。

去年の今ごろのことなんて、もう半分も覚えていない。

どんどんすり抜けるみたいに手の平からは水が零れていって、残るのはやわらかな感触だけ。

それがひどく切なくて、嬉しいことだと思うこと、僕は誇らしく感じてる。

 

僕はとてもひとりで、それをいつの間にか認めていた。

扉はいつだってふたつ用意されていて、僕は好きな方を開いてきたから。

見わたす限り何もない草原に、たったひとり立ってる。

あなたを必要としている。

誰にも飼われたくはないけど、帰る場所を求めている。

 

 

 

恋をした。

初めてみたいだし、そうではないかもしれない。

痕をつけるように、嬉しいことも、悲しいことも体に刻んでいくみたい。

満ち足りたい。満ち足りたくない。

朝露が葉から落ちる瞬間を見たんだよ、それは虚しくなかった。

 

あの頃の僕には戻らない、戻れない。

黒目に溺れるみたいな恋がしたい。

黒目に溺れるみたいな恋ならいらない。

朝陽があなたを照らすのならそれで満足。

それじゃ満ち足りない。

あなたのことが分からない。

それでもやっぱり満ち足りたい。

 

言葉じゃなくて、体で近づきたい。

思い出じゃなくて、笑って抱きしめあいたい。

それはちょっとだけ、愛に似ていた。

 

 

 

朝の光が昇って、働いて、陽が落ちて。

また布団にもぐって眠るの。

 

それはちょっとだけ、愛に似ていた。