24 hours

2019/2/9(土)

 

となりの気配で目が覚めたら、自分の両側にぴったり人がくっついていてびっくりした。シングルのマットレスに、三人で眠ったから、ぎゅうぎゅう詰め。すこし汗ばんでいて、ちょびっと気持ちがわるかった。「川の字になって寝ようよ」と酔ったぼくが提案したからだったけど、これじゃあ、【川】の字ってより太い【一】の字じゃん、と思って可笑しかった。

 

ゆうべは長野からやってきた友人と、ピッツァを愛している人と、YUKIを愛しているぼくの三人でお酒をのんだ。新宿三丁目にあるピッツァが売りのお店で、マリナーラを頼んだ。それから鯛のカルパッチョとか、アヒージョとか。一杯目にビール、それからボトルで白ワインと赤ワインを一本ずつ頼んだ。ピッツァを愛している人いわく、マリナーラは「まあまあ」の味だそう。

途中トイレに立った時、トイレの前に外国の方が立っていて、カタコトで中にまだ人がいることを伝えてくれた。テーブルに戻って、「カタコトで喋る外国人ってなんだかかわいいよね。流暢に話されたら、なんかやだ」といったら、ぜんぜん共感を得られなかった。いいじゃん、カタコト。

ほかにも、長野の友人が運営しているシェアハウスの話や、彼が東京にきて観たアニメ映画の話などをした。彼が、「ネットカフェに泊まるつもり」なんていうから、よければうちにおいでよと誘った。三人でぼくの家に場所を移して乾杯しなおした。それから太い【一】の字になって眠った。

 

7時半ころ、友人が目を覚ましたのでぼくも一緒に起きた。彼が家をでるのを見送ってから、もうひと眠りした。寝不足の日がつづいていたせいか、正午前まで眠ってしまい、ピッツァ好きの人に起こされた。彼のことも見送って、それからお風呂にはいった。

着替えて外にでると、点のような雪が降っていた。空気がぴんと張るほど寒い日の方が、肌の感覚がなくなって、かえって寒く感じない気がする。白い息を吐きながら、ひとりで黒いアスファルトの上を歩く。綺麗に息を白くするコツは、吸った空気を三秒くらい肺に溜めて、あっためてから吐きだすこと。これはぼくが小学生のときに気づいた発見。

家の近くにある蕎麦屋へいき、牡蠣のはいった温かな十割蕎麦をたべる。小さなころは、牡蠣は貝柱しかたべられなかったけど、いまじゃ身の部分の方が好きだ。温かなつゆにはいった牡蠣の身は、噛むとなめらかで熱い海のような味がした。とろとろと口の中であふれて、潮のかおりが鼻にぬける。寒い日、起きてから最初に胃にいれる熱いたべものは、しあわせの味がするように思う。

 

ごはんのあと、新宿へ向かう。タワレコYUKIの新しいアルバム “forme” を購入する。早く聴きたくてとんぼ返りで家路につくも、最寄り駅からの道で、前々からいきたかった喫茶店にはいる。ロイヤルチーズケーキとコーヒーを頼んだら、運ばれてきたケーキのお皿に、カラフルなソースアートがなされていて嬉しくなった。外は雪が強くなっており、それを眺める向かいのおばさんの話し声が聞こえてくる。ケーキは、江國香織の散文集を読みながらたべた。

家について、歌詞カードを眺めながら “forme” の世界にじっくりと浸る。たぶん、これまでに聴いたどんなアルバムよりも泣いた。YUKIは変わっていく。かわいい。

 

皿洗いをしながら、実家にいる母へ電話をする。かつてのぼくの部屋と、兄の部屋が工事によってくっついたらしい。壁も貼り換えたそうで、くっついたその部屋には兄夫婦が住む予定だ。YUKIも変わるけど実家も変わっていくのだなあ、と思う。

12歳のぼくは、よく夜になると二階にある自分の部屋の窓をあけて外を眺めていた。冬でもそうした。初めての恋をしていた。夜の町はもの静かで、すっと高い夜空も切なくなるのに適当だった。パジャマで素足で、けっこうな寒さだったと思うけど、仙台の空気はぴんと張っていたからあまり寒さは感じなかった。

あれから12年が経って、ぼくは運転免許を取得したし(ほとんど運転しないのでゴールド免許)、ひとりで暮らしているし、友人と他愛ない話で笑ったり、何人かの人と出会ったりさよならしたりした。ぼくはいまここにいて、外はもう雪がやんでいる。

 

いまから12年後、ぼくはどこでなにしてるかな。わかんないな。

きょう聴いたYUKIのアルバムの12曲目が “24hours” っていう曲でね、作曲がCharaで、作詞がYUKIなの。

 

遊んで 夢見て 眠って 歌って 踊るように

  話し足りないわ 24hours

  抱きしめてよ 24hours”

 

文章を書いてたらもう朝で、ぼくの身体は眠たくなってる。

24 hoursあっという間だな。

いまから12年後、ぼくはどこでなにしてるかな。わかんないな。

とりあえずきょう、手をつないであったかいなと感じたり、頭を撫でられてもっと撫でてほしくなったり、もっと話したいなと思ったり、24歳のぼくは、恋をしているよ。デルフィニウムアジサイ、リンドウ、プルンバゴ、スミレ、それからあの夏の花。そして、言葉が好きだよ。