労働することはつまらんことだ。という考えの方がつまらん考えだ。なんて言うのは綺麗事か。労働という言葉に含有されるものはなんですか。好きな人の食べ散らかした食器をいとしい気持ちで洗いました。お金はもらえませんでした。私も好きな人も幸せな気持ちになりました。ありがとうと言われました。もっと幸せな気持ちになりまして。苦手だと思っていた人に優しくできました。優しくされたその人は夕餉にラーメンを食べました。対価として支払われた金銭は巡り巡ってデイトレーダーの下へ。デイトレーダーは言いました。人間には希望的観測というものがあるからね。金融取引のタイミングは全て機械に任せているんだよ。ギャンブルで負けてしまう理由を知っているかい。希望的観測が挟まれてしまうからさ。人間に血が通っている限り希望的観測を捨てることはできない。その日デイトレーダーは百万円の利益を得ました。職業に貴賤はありません。市場参加者がいる限りは金融の流動性を確保するという貢献をデイトレーダーはしました。投資ですか投機ですか。明瞭な区分はないでしょう。市場の需要に応えているだけなのさ。彼は明日も百万円の利益を得ました。三十年後彼は若い芸術家を支援する資本家になりました。若い才能を見ているのが好きなのさ。エネルギーに触れていたいという血の通った人間さ俺も。ワインを啜る彼は赤い色を捉えた。そのとき紛争の地にいた男の子は赤い色を捉えた。爆撃に巻き込まれていました。父親は目の前で死に絶えました。母親は妹を連れてどこかに逃げてしまいました。ただただ砂ぼこりの中で生きようとしました。砂煙のようなスモークの下で踊り狂う渋谷の地下の人々。そのちょうど真上の街に家出した高校生がいました。パパ活をして知らない男の家を渡り歩く。一晩の相場は一万五千円。安いのか高いのかはよくわかりませんでした。彼女が提供するのは若さ。男は果てた後で若さを隣に平和な夢を見ました。愛する人に食べ散らかした食器を洗ってもらう夢を。起きた後で思いました。労働することはつまらんことだ。