親指を齧って / 幾許

親指を齧って

 

苦い恋をして ささくれた薬指

連絡をたまにしか取らないのは 興味がないからじゃないけど

フィクションしか話さないあの人

フィクションしか書かない私

 

一緒に入ったトンネル

途中で絡み付いた肌

遠くに乾いた光が見えた

 

もう一度会うのなら

遊園地なんかじゃなく 海へいこう

月曜の朝早く 仕事なんて忘れて海へいこう

そのまま溺れたみたいに

愛し合えたなら幸せだから

 

もう二度と会わないのなら

あの場所なんかじゃなく 海へいくよ

日曜の夜遅く 仕事なんて忘れて海へいくよ

そのまま溺れたみたいに

ひとりになれたなら幸せだから

 

 

 

 

 

 

 

 

幾許

 

怖い夢をみた

深い白黒の砂に どこまでも埋もれてゆく

男も女もなく 人間ですらない

私はただの意識になって

あなたと砂漠よりも深い口づけをした

もう二度と 誰にも会えないと思った

 

冷たい水で醒めた夜半

映画みたいに あなたの姿を捜した

 

銀杏が黄色く降り積もっている

冷えた風が季節を知らせている

身体という肉体がある まだ自我がある

夢でもいいから

もう少しだけこの世界にいさせて

 

もう少しだけ

生きていさせて