浮遊する覆い ねえ 別れようとおもえば いつでも別れられるよね私たち 紫の車が光に照らされて 水溜りに浮く油のよう 艶やかに 夜の中 ねえ 意味のない会話を いつまで続けるだろう私たち 道行く人のコートが体に触れて 居酒屋の看板のよそよそしい白さ 夜の…
こんな風になるなんて、自分でもびっくりしている 突然にお互いが、お互いの世界に現れて どんどん知っていってしまうよ 知っていってしまう あの人はとても自立した人 あの人は他人に期待をしない人 孤独を受け入れているように見えて、だから惹かれた 静か…
寝て起きると、部屋がオレンジ色の光で満たされていた。 朝陽か、夕陽かもわからない。枕元の時計を掴むと、4時22分を示していた。が、午前か午後かわからない。ベッドの上で、からだを半分だけ起こして、窓の外を見る。 記憶が、浴槽に勢いよく沈めたタオル…
シェーンが私の部屋のドアをノックしたのと、私の腋の下で体温計が鳴ったのはほとんど同時だった。 「カオリィ、起きているんだろ? ジュリエットがご立腹なんだ」 体温計を見ると、99℉を示していた。アメリカ留学に来て二ヶ月。未だにアメリカでの華氏表示…
濡れた手で鞄の中をまさぐる。熱を帯びた手。ここにありはしないかと、沢山の紙屑湿らせては掴んで。皮膚に革のにおいが移るまでべたべたと、濡れたのは私の所為じゃない。 鞄の隙間という隙間に指を這わせて、「それ」を見つけることで頭がいっぱい。 隅か…
分かりたい。 分かりたいって思ってる。 でも分からないこともあるんだよ、それでいいって思ってた。 朝の光が昇って目を覚まして、働いて、陽が落ちて。 また布団にもぐって眠るの。 それを奇跡って呼ぶのか、虚しいってうなだれるかは、僕たちの自由だもの…
空は高く、夕立を携えた雲が走る コンクリを打つ音、雨宿りする人々 ぼくらなら、間もなく止むだろうこと解りながら濡れて走るさ 緑のモミジが鮮やかに落ちた 夕立はあがって、蒸し暑い今日という日の暮れ このまま繁らないとしても、一向に構わないさ 湖の…
絵を、見に行った。ひとりで。 ホリウチヒロミさんが壁一面に描いた、大きな絵。 原宿のデザインフェスタギャラリーにある、休憩室のような小さなスペースにその絵はある。 私がその絵を見に行くのは3度目だった。最初見に行ったときは、壁の7割くらいが埋ま…
夏の花が咲いていて あなたに教えてもらった名前を思い出す 「日本の夏だね」って言ってあなたと歩く いくつもの火をつけては 面白がってすぐ逃げ出した 涙に暮れて笑い転げて 少しずつ気持ちは色を変えて 初恋を結んでは ぞんざいに投げつけて「こんなもの…
ひとり暮らしにも慣れたと思っていたのに あなたが去った後に、むせ返るような残り香 蚊取り線香を焚いて、子どものように泣きじゃくる夏 さようならが、いつまでも上手くできない ぼくは大人になって いつの間にか大人になって 忘れたような記憶が 雨に濡れ…
僕の人生の一瞬一瞬は、本当は尊いはずで、あなたの人生の一瞬一瞬も、本当に尊いはずで、だけれどときどきそれを忘れてしまう。 あなたと会うということは、僕とあなたの時間を共有することで、ふたつの心の距離が変化し続ける感じがして、人生の一番大切な…
仕事帰り、新宿駅の南口で待ち合わせをする。 君の髪が随分短くなっていることに気づいて、似合ってるよと言う。ありがとう、と言われる。 テニスのガットを張り替えるためだけにわざわざ新宿まで来たと言う君に、何それ、と笑ってみる。普通じゃない? と君…
現代。着地点は俺が決めるから、地に足はついてる ずっと楽しいキブン。身体が変わっちまった、この世のすべては楽しい あの日の身体、忘却の彼方、同じ身体 泥船なんかじゃない、色っぽいこの信念、生意気な身体 だんだん、日々を忘れて だんだん、意味も、…
カーリング女子銅メダル獲得おめでとう~!!! たまたま今日、夕飯を食べに定食屋さんに行って、そこのテレビでカーリング女子の試合が流れてた。 そこの定食屋さんは、中国人かな? と思われる、ちょっとカタコトの元気がいい女の人と、白髪まじりでにっこ…
"君が居ない 君がいる 繰り返すだけ 君と別れて また別の君を愛した" 大森靖子 『東京と今日』 仙台に生まれ育った。 母も父も大好きだった。兄のことも姉のことも、好きだった。 高校の友達のことも、好きだった。 でも、仙台から離れたかった。 どうしてか…
2年弱くらい前に、大阪の人がぼくのことを好いてくれていた。 彼は大阪から千葉までわざわざ来てくれて、飲みに行ったり、一緒にディズニーシーに行ってトイストーリーマニアに乗ったりした。 幕切れは簡単で、「弄ばれているような気がする」と言われて、…
風邪をひいた。 大学院を卒業するための修士論文を、4日で書いた。 ふつうは1、2ヶ月くらいかけて書くものなんじゃないかな。多分。 僕にとっては、修士論文なんて超どうでもよかったから、なるべく執筆期間を短くしたかった。 ここ最近ずっと忙しくって…
あれはなんだろう 夕陽を映す湖のまたたき あれはなんだろう 夕焼けに目を細める赤子の黒目 あれはなんだろう 北の町で生まれ育ったあの子の三つ編み あれはなんだろう 初めての逢引きは石畳に光る水溜まりの夕暮れ あれはなんだろう 乾いた掌は富士山のよう…
昨年の終わりあたりから、自分の中に「感情ちゃん」と「大丈夫くん」がいることに気がついた。 彼らはぼくの中で日々勝手に遊びまわり、大声で叫んだり静かに座りこんでいたりする。 ぼくは自分の核というか、コントローラーみたいなもので二人の手綱をとっ…
画面ばかり眺める理論家は、世界のなに一つも知らない。 いつも恋に飛び込む気分屋は、馥郁たる世界を知っている。 傍観者でいることが客観的であることだと、一体いつまで思ってる? 上手く立ちまわろうとして、袋小路に追い詰められている愚か者は誰? 本…
この家の中で最も安心できる場所が風呂場だ。 いまは午前一時過ぎで、居間に敷いた布団の上で兄夫婦とその子供たち――私にとっての姪と甥――は死んだようにぐっすりと眠っていた。その居間とふすま一枚で仕切られた和室では、今月生まれたばかりの姉の子供が、…
あなたがもし、「自分の人生クソみたいだな」って思っていたとしても。 ぼくは、あなたが生まれてきたことに、「おめでとう!」って言いたいな。 「希望を持て」って、すごくつまらない言葉だと思う。そんな抽象的な言葉ではだれも救われない。誰でも、希望…
恋愛はオプションあったら楽しいかもね性別はオプション昨日は女で今日は男なくたって構わないかもねルールはオプション3人で付き合えば楽しいし裸で外歩いたっていいかもね人生なんて荒野とがった風が痛いどっちに行きゃ幸せどこに立ってるかわからないなら…
原宿にあるデザインフェスタギャラリーに行って、ホリウチ ヒロミさんの個展を見てきた。 原宿駅なんて普段降りることがないから、観光気分で竹下通りに入ってみると3分も経たずに後悔した。祝日ということもあってか、道は人、人、人。クッキー缶をじゃかじ…
寒い夜に 星を見にあなたと待ち合わせ 心が浮き立って落ち着かないな 貸してくれた本返せなくて 闇に揺れる木々の音聞こえるほど 怖がっているから 話して 月のない空 燃える砂と赤い光 揺れる青い炎見つめているのは 甘いココア飲みたいからじゃない yes を…
ある人に手紙を書いた。便箋10枚ほどの長い手紙。 返事はすぐ返ってきて、「しょげたり、淋しがってる暇はありません」という言葉をもらった。 「あなたは優しいけど強い人間だと思っています。その強さは風のように柔軟で、自分が嬉しい時でも苦しい時で…
河原で拾った、まあるい石持ってどこ行くの。 メタセコイアの下で待ち合わせしよう、夕焼けが校庭を照らしてる。 うちに帰ればカレーのにおい、お母さんが待ってるよ。 お墓の前で唱える言葉、涼しい日陰、木々の揺れる音、お父さんがチャンネルを変えたがっ…
ガラス窓のこちら側から他人行儀に見ていたはずなのに、そして身に覚えもないのに、キリキリと胸の奥が痛い。 もうとっくに忘れてしまった記憶を、忘れたままに引っ掻かれたみたいにかゆくて痛い。 でも不思議と、その痛みは大切に抱いていたいと思えた。 坂…
先日本屋で真っ赤な装幀が目に留まって、女優の小林聡美さんの『ていだん』という本を買った。 小林聡美さんは映画『かもめ食堂』に出演していたり、テレビだと、彼女がおいしそうなサンドイッチやイングリッシュマフィンを作って、それにつられて熊やこども…
肝要な事を口にすれば負け。僕はさっきから、下手な芝居を打っている。どうとでも取れるような言葉を並べて、本当の事は夜に隠して。明かりを消して、何も見えなくする。その両の目は飾りだから、月が隠れたとき見開かれるものが本物。おそらくは、二人のあ…