2022年7月18日(月)の日記

夏は夜、と綴ったのは清少納言? 性消費納言?

ベランダに出ると夏の夜気が体にまつわりついて肺の底に植物の濃い呼吸の音が染みる。煙草を吸う人間だったらきっとこんな夜はベランダで気怠く煙をふかすのだろう、と思いながら干しっぱなしにしていたバスタオルを部屋へ取り込む。夜に取り込んだ洗濯物はいつも、夜の気配を身にまとっている気がする。気のせい? 風呂上りに夜取り込んだバスタオルで体をふくと、体が夜になる。なぞった部分が透けて、星空のようになってその先にあの子の孤独が見える。四次元ポケットみたいになったその夜の部分に手を埋めると、手は消えてぼくは宇宙になる。どんどん吸い込まれて、これはブラックホールだ、ぼくがなくなってしまうと思いながらも伸ばす手を止められない、そうやって虚無になる。星屑がいくつにも、いくつにも割れて、砕け散って、ばらばらになったりひとつになったりするのを永遠に眺めている。宇宙の番人になる。

昼に取り込んだ洗濯物はもちろん、日の光をまとって清潔。昼に取り込んだ衣服を着るときはその光が体に染み込んできて、あっけらかんとした自分になる。反対に、夜取り込んだ衣服を着ると、夜の人間になる。目に見えないアイラインが引かれてマスカラがばさばさ生えて、きっと、煙草をたくさん喫む人間になる。夜にふかす煙草の煙は暗闇の中で白くくゆり、吐いた息と同じくらいの湿度を帯びた夜気に、溶けるとも消えるともつかぬまま、見えなくなる。ぼくはその白さを目でなぞっているつもりだが、いつの間にか実際の視界に残るのは夜の暗闇ばかりで、いつまでも目の奥に残った白を追い続ける。目をつむる。羊羹みたいに甘い色をした夜の空に、架空の煙草の煙が溶けてゆく。ああ綺麗。綺麗だけど、この美しさを共有できる人はいない。世界中のどこを探してもいない。宇宙の番人は星の様子を眺めるばかりで、この地上のこのベランダから見える景色を知らない。ああ、これが幸せ。ぼくの幸せ。

 

誰も知らない幸せしか信じられなくなったのは、いつからだったろう。

大人になるってこんなにさみしくて気持ちいい。孤独を使いこなすようになったぼくらは、宇宙の果てへも、この世の果てへも、どこへでも、望まれるがままに望むがままに。

 

 

春はあけぼの。ぼのぼのかわいい。

このあいだ他人から顔面について「かわいい」と沢山ちやほやされる機会があったけど、なんか全然嬉しくなかったな。なんかもう顔面の見た目の話とかすんの言われる側からしたら全然オワコンだし時代遅れだしナンセンス~とか思ってたけど、昨日は目つき悪い人に目つき悪くてかわいい~とか言っちゃったし今日はめちゃめちゃ顔面がぼくのフェチですって人に興奮してかわいい~って言いたくなったりしたので全然人のこと言えないなってなったけどフェティシズムの「かわいい」を言いたいってのは完全に言いたい側の欲望でしかないんだなってこと自覚しました。「かわいい=可愛い」で「愛す可き」なわけだから斬新なかわいいじゃないとやっぱかわいくないんだよな~いつまでもつまんないかわいいに満足できない。

 

ねえ、年齢って重ねれば重ねるほど価値がなくなる、っていうことに世間的にはなってるの? めっちゃウケる~。ドキドキしてワクワクしてる時間が増えれば増えるほど魅力なんて増すに決まってんじゃ~ん! て心のギャル(誰?)が言ってるけど、そうか、ドキドキワクワクできない時間を積み重ねてばっかいるからきっと歳をとることが醜いってことと結びついているのか。永遠に同じとこで足踏みしてる感じ?

友達いても彼氏いてもお金あっても結婚してても仕事うまくいってても持ち家あっても宝くじ当たっても幸せになれない。ドキドキしてないとワクワクできないと生きてる意味を見出せない。一年近くかけて仕事から疲れて帰ってきたときや休みの日に愛する人と過ごす時間を潰してまで丹精込めて作り上げた小説をなにかの拍子に読み返して心底つまんない、って、主観的ではなく客観的に気づいてしまったとき「あ~全部無駄~」てなるけどそうやって得られる学びや気づきや煌めきを拾って生きていく、そうやってしかぼくは生きられないんだよこのことに病名をつけてください、絶対に名前で安心なんてしてやんない。

いろいろなことに名前がついていく、それはとても素晴らしいことであると同時に「わかってしまう」という病、それこそが一番恐ろしいことだと思うんだ。ぼくはあなたを、わからない。あなたはぼくを、わからない。見つけないで。誰にも見つからないところにしかぼくの幸せはない。見つけないで。

 

自由が貧しい。他人と意見が異なることは当たり前で、それを前提として話を組み立てなければならない。無視する? 説得する? 妥協する? 理解する? 教養がなければお話にならない。ぼくはなにも言えなくなる。でもなにも言えなくなることこそ一番、不健全だとも思う。なんでも言ってほしい。でもなにもかも言ったところで解決するの?

明るくて優しいこと以上に最強なことってなくないすか。

全然まだまだこんなもんじゃないだろ。まだまだ世界の先を見たいだろ。

 

 

人を好きになる才能だけはあるから、どんだけ世の中が腐っていようと幸せに生きていく。続けることにだけ価値がある、なら、あなたが生きている、生まれてからこれまで、生き「続けてきた」ということに価値がある。「生き続ける」ということが状態動詞であるならぼくは死にたい。才能がないことまだ誰にもバレてないから、まだここから始められるよねって、がはがは笑う。