2023年6月13日(月)の日記

ゲイバーで知り合った男と寝た。体と手の大きな、優しくて声のよく通る、朗らかな男だった。

土曜日のゲイバーはカラオケで騒いでいる人々が多くてとてもうるさかった。キンミヤを少しの緑茶で割ってべろべろに酔っ払っていた。隣の卓に座っていたから会話が始まって、友人グループを抜け出して相手の家に行くのは、いま思えばなんだかあまりに典型的だけれど、初めてみたいに心音が高まった。

年齢はひとつ下で、歯科医をしていると言っていた。バイセクシュアルだと言っていた。桜餅は好きだけど桜はあまり好きではないと言っていた。花火は好き? と訊いたら、結構好き、と言われた。八重歯がかわいかった。

行きのタクシーで手を握られて、緊張して手に汗をかいているから嫌だと言ったら、笑われるかと思ったけど、気にしないよ、とこちらをまっすぐ見て言われたから、こいつ慣れてるなと内心思った。思ったけど、それは本当に思ったのか、あまり深入りしないように自分で予防線を張っていたのか、わからない。手が温かかった。

部屋は雑然としていて、特に洗面所が汚かった。歯科医って洗面所綺麗にしてそうなのに、と言うと、難しそうな顔をしていた。

全身を噛まれた。もっと強く噛んでも好いよ、と言うと、困ったように笑った。ぼくは首と肩を噛んだ。桃の味がした。

窓を開けたまま夜を明かすのが好きだと言うと、風邪ひかないでよと言いつつ、開けてくれた。薄墨のような夜気に、朝の細かな光が粒立って混じりあうのを感じた。相手の体温が、ぼくより常に高かった。いつもなの? 訊くと、自分の体温なんてわからない、と彼は言った。ぼくがいないとわからないんだ、と思ったけど、口にはしなかった。ぼくも、彼がいないと自分の体温が低いか高いかなんて、わからない。

ぼくが先に眠ってしまって、彼が毛布をかけてくれた。目が覚めると、彼は隣で眠っていた。昼間の暴力的な陽射しの中眠るその男は、なんだかやけに幼く見えた。

きのうと同じ服を着て、音を立てないように家を出た。たくさん口づけて、たくさんここが素敵、ここが格好好い、ここが色男、と伝えたのに、恋人がいることと、好きだということは伝えられなかった。